​第5話:嘘の城と、完済という名の「毒」

【実録】ギャンブル破滅物語:自己破産への軌跡

​大学3年。積もり積もったサボりのツケが、目に見える数字となって襲いかかってきた。

単位が、絶望的に足りない。

今からフルで取得しても、卒業できるかどうかは紙一重の博打だった。

​慌てて教室に顔を出し始めたが、心ここにあらず、だ。

こんな状態になってまでも、頭の中では「授業が終わったあとにホールへ向かうこと」しか考えていなかった。

​ときおり、母が様子を見がてら部屋の掃除に来てくれたり、段ボールいっぱいの食料品の仕送りがを送り届けてくれたりした。その度に胸が締め付けられるような罪悪感に襲われた。だが、その痛みも、ホールの自動ドアをくぐれば一瞬で霧散した。

​初めての借金、学生ローンの誘惑

​バイトをしていても、負けが込めば金は底をつく。

「どうしよう」と焦りながらネットの海を彷徨っていた俺は、ある言葉に出会った。

​「学生ローン」

​収入があれば借りられる。その甘い響きに誘われ、俺は人生で初めての借金をした。金額は10万だった。

​当時は借金に対する恐怖心もまだ残っていた。だから、「滞納すれば取り返しがつかないことになる」と自分を律し、バイト代からきっちりと返済を続けた。結果として、俺は一度も遅れることなく完済した。

​だが、この「完済」という成功体験が、俺の脳を狂わせた。

​「自分は、借金をしてもしっかり返せる人間なんだ」

​そんな根拠のない自信が、後の巨大な地獄への扉を、音もなく開けてしまったのだった。

親の愛を糧に、嘘で繋ぎ止めた「モラトリアム」

​迎えた大学4年。

首の皮一枚で繋がっていた単位は、必修科目の試験日に「寝坊」したことで、あっけなく千切れた。

目が覚めた時の、あの指先が冷たくなるような感覚は今も忘れられない。

​親のおかげで成り立っているこの生活。それを続けるには親への説明と了承を得ることが不可欠であった。だが、俺はここでも本当のことを言わなかった。

​当時はいわゆる就職氷河期。俺はその社会情勢を隠れ蓑にして、親にこう告げた。

​「景気が悪くて就職が決まらない。だから留年させてほしい」

​俺は嘘を吐くことに慣れ始めていた。借金と嘘は、常にセットだ。

騙されているとも知らず、可哀想な両親は「それなら仕方ない」と留年を許してくれた。両親は俺の将来を本気で案じてくれていたはずだ。

​もちろん、申し訳なさはあった。だが、それ以上に俺の心を占めたのは、「これでまた一年、この生活を続けられる」という醜い安堵だった。

親が身を削って工面してくれた学費も生活費も、当時の俺にとっては、この歪んだ生活を一日でも長く引き延ばすための「延命資金」に過ぎなかったのだ。

空虚な幕引きと、残された「負債」

​留年した1年間は、流石に真面目に大学へ通った。

同じように留年していたN氏も、地元から通いながら残りの単位を埋めていた。会う頻度は減っていたが、たまに大学で会うと相変わらず一緒にホールへ向かったりもしていた。

​単位不足による留年。そして就職浪人としての敗北。

なんとか卒業は出来たが、結局、1年間の猶予を貰ったにも関わらず、就職に関しては何一つ好転させることはできなかった。

卒業式には、出なかった。

式典がどこで、いつ行われているのかすら、どうでもよかった。

年下の後輩たちが門出を祝って騒いでいるその日、俺は一人、人知れず孤独に大学を去った。

大学生活で、俺が手に入れたもの。

それは教養でも将来への希望でもなく、積み上がった嘘の数々と、麻痺した金銭感覚、そして、消えることのないギャンブルへの執着だけだった。

「流石にもう、帰ってこい」

​親の言葉に従い、俺は県外の一人暮らしに別れを告げ、地元に帰ることになった。

表向きは、不運な就職浪人生。

だがその実態は、親に嘘を吐くことに慣れきり、借金への抵抗感を「完済」という成功体験で麻痺させた、最悪のギャンブル中毒者だった。

​地元での生活が始まる。

俺の脳に焼き付いた「液晶の光」は、消えるどころか、より深く、静かにその時を待っていた。

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