第9話:絶望と、歪み始めた世界

【実録】ギャンブル破滅物語:自己破産への軌跡

車検を機に手にした50万円の枠。

それからは、給料をパチンコで失くすと、まるで自分の貯金を引き出すかのように平然とATMから金を借りるようになった。

​50万円の枠なんて、適当にパチンコを打ち散らかす俺にとっては砂漠に撒いたコップ一杯の水に過ぎなかった。

「足りなくなれば、また引き出せばいい」という甘い誘惑に、俺の脳はもう抗えなかった。感覚は麻痺し、借金のおかげでむしろ羽振りが良くなるという逆転現象さえ起きていた。

​奇跡のあとに待っていた、悪魔の囁き

​借金が30万円を超えた頃、奇跡的にパチンコの調子が良いのが数日に渡って続き、あと5万円で完済できるというところまで来た。

「ここで引き返せば、借金のない自分に戻れる」

​その安堵感は、確かにあった。それは借金の傷がまだ浅かった頃、俺が完済に最も近づいた出来事だった。そこからは一度も完済に近づけたことはないので、実質、俺の人生にとっての「ラストチャンス」だったとも言える。

​今でも、「あの時やめていたら……」と振り返ることがある。だが、そこで辞められるような性格なら、そもそも借金をしてまでパチンコはしていないのだ。

結局、その浮いた金も軍資金に消え、さらにカードを使い続け、あっという間に50万円の「天井」に到達した。

​絶望しかけた俺に届いたのは、「増枠が可能です」という悪魔の囁きだった。

止まらなくなっていた俺はすぐに審査を受け、限度額は100万円に膨れ上がった。

ある一定のラインを超えると、人間は何も感じなくなる。現実を直視したくないから、ただ目を背け、平然と借金を繰り返す日々が続いた。

​駐車場で味わった、現実の「ぐにゃあ」

​そして、その日は唐突にやってきた。

ATMの画面に表示された、無機質な「お借り入れ可能額 0円」の文字。

ついに100万円の枠が、天井に達したのだ。

​閉店間際のパチンコ屋の駐車場、暗い車内。

運転席に力なく座り、うなだれる。目の前の景色が文字通り「ぐにゃり」と歪んだ。

漫画『カイジ』で描かれるあの絶望の描写。あれは比喩ではなかった。激しいめまいと、心臓を直接冷やされるような感覚。

「俺、100万円も借金したのか……?」

​50万の時はまだ自分を騙せていた。だが、100万という大台は、俺の生活レベルでは完全にキャパシティを超えていた。恋人や家族の顔が頭をよぎる。隠れて100万の借金。結婚願望もあったが、今の状況に幸せな未来なんて、どこを探しても見当たらなかった。

​2枚目の「毒薬」への歓喜

​絶望の淵で俺が取った行動は、反省ではなかった。

「借金で借金を返す」ことさえできれば、今日一日は「死なずに済む」。

ネットを検索し、「スマホから最短数分で借りれる」という文言に藁にもすがる思いで個人情報を打ち込んだ。

​無人契約機の時よりも、あっけなく審査に通った。

その瞬間、俺は雄叫びを上げたくなるほどの歓喜に震えた。「まだいける。まだ大丈夫だ」と。

​今度は別の消費者金融で50万円の枠。

「今度こそ、これで最後にしよう」

そう心に誓ったはずだった。

​壊れたブレーキ、加速する消失

​だが、一度壊れたブレーキが再び機能することはなかった。

その50万円が溶けるスピードは、自分でも引くほど早かった。パチンコ、彼女との旅行、見栄のための買い物。

「借りた金」を「自分の金」として使う快楽に、俺は完全に溺れていた。

​罪悪感は回数を重ねるごとに消え、「もう引き返せない」という諦めが指先をさらに加速させた。

そして、50万円の枠もあっけなく天井を迎える。

​手元に残ったのは、合計150万円という莫大な負債

かつて暗闇の中で電気を消して過ごしていたあの頃よりも、ずっと深く、冷たい絶望がそこにはあった。

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