第8話:財布の中の打ち出の小槌と、鋼鉄の監獄

【実録】ギャンブル破滅物語:自己破産への軌跡

​工場で働き出し、初めて手にした「まとまった給料」。

実家に数万円入れ、残りは自由に使う。学生時代に比べれば、自由に使える金額も増え、天国のような暮らしだった。

​だが、そんな余裕も、パチンコの爆音と光の中に溶けて消えるのは一瞬だった。

給料日直後だというのに、俺の財布はすでに空っぽだった。

そして、追い打ちをかけるように「その日」がやってくる。

車検だ。

​俺が住む地方は、車がないと生活が成り立たない。公共交通機関もあるにはあるが、本数は限られ、行動時間は極端に制限される。車を失えば、毎日会社へ通うことすらままなくなってしまう。車検を通せないことは、この街で「生活の死」を意味していた。

​激怒の予感と、鋼鉄の個室

​「給料も自由に使わせて、実家で暮らしているのに、なぜ車検代すら貯めていないんだ!」

親に泣きつけば、そう激昂されるのは火を見るより明らかだった。

学生時代の家賃滞納の悪夢が蘇る。あの時の親の怒声、大家への申し訳なさ……。

「もう二度と、あんな思いはしたくない」

​その逃避の念が、俺を動かした。ネットで調べると、近くに消費者金融の無人契約機があることを知る。

子供の頃、テレビで流れる消費者金融のCMはユニークなものが多く、友達とふざけて真似をしたものだ。大人になり、まさか自分がその扉を叩くことになるとは思ってもみなかった。

​実際の無人契約機は、無骨で、妙にクリーンで、逆に不気味だった。人目を避けるように設置された目隠しのフェンス。

車通りの多い通りに面しているため、「万が一、家族や知り合いが通って顔を見られたら……」と薄ら寒い想像をしながら、そそくさと車を降りて建物へ滑り込む。

​「できてしまった」という絶望的な万能感

​建物に入ると返済、借入用のATMがあり、その奥の扉を開けると、無人契約機の個室があった。

入った瞬間、カチリと自動でロックがかかる。悪いことをしたわけではないのに、監獄に閉じ込められたような冷たい緊張感が走った。

​機械の指示通りに個人情報を入力し、備え付けの電話で担当者とやり取りをする。

「はい……」「……そうです」

淡々とした受け答えのあと、審査が始まった。

​静まり返った個室。緊張と空虚な時間が流れる。

そして、画面に結果が表示された。

「ご利用限度額:50万円」

​こっそりと、思ったより早く。

俺の手元に、魔法のように大金を引き出せるカードが舞い込んだ。

……いや、「作成できてしまった」のだ。

​「なんだ、こんなに簡単なのか」

恐怖よりも先に、呆気にとられたような感覚があった。車検費用なんて、その枠のほんの一部で事足りる。当初はそれ以外に使う気なんて、さらさらなかった。

​だが、一度手にした「50万」という全能感は、俺の耳元で甘く囁き始める。

​悪魔の囁き、再始動

​「まだ枠はたっぷりあるじゃないか」

「ちょっとくらい遊んでも、次の給料で返せばいいだけだ」

​かつて学生ローンを完済したという、歪んだ自負。

そして、いつでもATMで金を引き出せるという、麻薬のような利便性。

車検代を支払ってなお手元に残る「借りた金」を、俺はいつしか「自分の金」だと錯覚し始めていた。

​車検を通し、親には「(自分のお金で)ちゃんと払っておいたよ」と嘘をつく。

バレなければ、何も起きていないのと同じだ。

そう自分に言い聞かせながら、俺は再びホールでハンドルを握った。

この時、俺が借りたのは単なる金ではない。

自分の未来を切り売りし、破滅へと続く長い坂道を転がり落ちるための「勢い」を、俺は手に入れてしまったのだ。

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