警察署での夜を経て、俺の人生は「自己破産」という法的な幕引きへと舵を切った。
インターネットで弁護士事務所を検索するなか、偶然にも同じ小学校の、数年上だった先輩が営む事務所を見つけた。元々真面目で賢い人だったことは知っていたし、学生時代に言葉を交わした記憶もうっすらと残っている。
「あの子なら、きっと力になってくれるだろう」
親は一筋の希望を見出したように期待を寄せていたが、俺の心境は複雑だった。かつての「あの日」を知る少年が、今はスーツに身を包み、立派な弁護士になっている。
一方の俺は、ギャンブルに溺れ、禁忌の金策に手を染め、膨れ上がった負債を抱え、彼に泣きつこうとしている。
その鮮烈すぎる対比が、言葉にできないほど惨めで、痛かった。
免責という「最後の慈悲」
早々に予約を取り付け、父と共に事務所へ赴いた。二人の間に重く神妙な空気が流れていた。
弁護士さんと対面し、時折される質問を返しながら説明を受ける。
「本来、ギャンブルによる借金は免責(支払いの免除)が下りないことになっています。ですが、初回であれば、反省の態度次第で認められるのが通例です」
弁護士となった彼は、かつての面影を残しながらも、冷静なプロの口調で淡々と説明した。その言葉を聞き、俺よりも父の方が深く安堵のため息を漏らしたのを覚えている。その日のうちに契約を交わし、自己破産への手続きが本格的に動き出した。
それからは、自分の罪を一つひとつ数え上げる作業が始まった。
家計簿をつけ、書類をまとめ、いつ、どこから、いくら借金をしたのか。その時どういう考えで、どんな感情だったのかをすべて書き出す。通帳の写しを揃え、己の醜態をすべてさらけ出す。
消費者金融やクレジットカードだけでなく、後払いや、あの忌まわしい「先払い買取」の業者もすべてリストに書き出した。膨大な債権者の数を改めて目の当たりにし、
(……俺はこんなに、あちこちから借りていたのか?)
と、自分自身のことながら驚愕した。
弁護士が介入すると、債権者は債務者へ直接督促することができなくなる。職場へ連絡を入れてきた先払い買取の業者も、弁護士の一言であっけなく引き下がったという。
「ああ、これでようやく、あの地獄のような督促から解放されるんだ」
支離滅裂な俺の情報を整理し、膨大な資料にまとめ上げてくれる事務所の方々には、尊敬と感謝の念しか湧かなかった。事務的な手続きが進むたびに、家の空気は少しずつ、落ち着きを取り戻していった。
暗雲たちこめる「誓約」
弁護士からは、何度も釘を刺されていた。
「免責が下りるまではギャンブルや、新たな借金は絶対にしないこと」
「もしこれが発覚すれば、免責は下りず、すべてが水の泡になりますよ」
親の前で、俺は神妙な顔で頷いていた。
嘘をついているつもりはなかった。その瞬間だけは、本気で「もう二度とやらない」と自分に誓っていた。慎ましく暮らし、過去を清算する。それが親に対する、そして自分に対する唯一の償いだと思っていた。
だが、地獄の釜の蓋は、閉じてはいなかった。
手元に金がなくなり、物理的にギャンブルから切り離され、生活が「安定」し始めたその時。空っぽになった俺の心に、またあの「乾き」が忍び寄ってきた。
破産の準備を進め、裁判所へ出す書類を書き溜めているその最中でさえ、俺の指先は、禁じられた「刺激」を求めて震え始めていた。
ここまで読まれてきた読者の方は呆れ、中には怒りを覚える方もいらっしゃるだろう。「まだやるのか」と。
自分でも書くことが憚られるほど繰り返される、醜い愚行。だが、これが俺の、依存症という病の、底知れない正体なのだ。

