第23話:数行の遺書と、完遂できない幕引き

【実録】ギャンブル破滅物語:自己破産への軌跡

​冬の朝。家族に「行ってきます」と嘘をつき、車にこっそり道具を積み、駐車場に向かう。

手持ちの金はもう底をつきかけていた。残されたわずかな金は、駐車場と、最期の場所へ向かうためのガソリン代に充てると決めていた。

​冷え切った車の中でYouTubeを眺める。画面の中に流れるのは、凄絶な人生を歩んできた人たちのドキュメンタリー。死を目前に控えた俺にとって、それは唯一の救いだった。自分より苦しい思いをした人が、今もどこかで息をしている。

俺は自分の身勝手な借金で自滅しただけなので、本来比べるのもおこがましい。だが、画面の中の命の輝きは、俺にわずかな希望をくれた。

​「もしかしたら、俺のこの地獄も、いつか『過去』になる日が来るのかもしれない」

​ただ、そのためにはこの地獄を何らかの形で「解決」しなければならないのだが。

実体のない絵空事を一瞬だけ抱き、結局夜中に暗い自宅へ帰る。そんな、中身の抜けた生活が数日続いていた。

​かりそめの安堵、突きつけられた静寂

​大学時代に読んだ、かつて社会現象にもなった『あの本』のことを思い出していた。自らの終わり方を網羅した、あの本だ。

当時はただの興味本位でページをめくっていたが、まさかあれが自分にとっての「マニュアル」になる日が来るとは、当時の俺は夢にも思っていなかった。

​ネットで「楽に死ねる方法」を検索し、職場にも行かず、結局成し遂げられずに深夜に帰るだけの生活。もう数日、誰とも話していない。

ある日、たまらなくなって「いのちの電話」にダイヤルした。

​多くの人が利用しているのか、なかなか繋がらない。

何度も、何度もリダイアルして、ようやく繋がった相手の声は、どこまでも穏やかだった。俺の懺悔ともいえる言葉の数々を、相手は否定せず受け止めてくれた。

​「死なないで」

「家族に打ち明けて」

「専門機関に相談して」

「まずは、お家に帰りましょう」

​向けられたのは、一点の曇りもない正論だ。

わかっている。これしか言えることはない。俺が相談員だとしても、きっとそう言うだろう。

こう言われても、今の俺の絶望が解決するわけではない。だが、そんなことは最初から分かっていた。

​けれど、崖っぷちに立って震えている俺にとって、その声だけが暗闇の中で唯一繋がっている「糸」だった。とにかく、誰かに話を聞いてほしかった。

​話を聞いてもらっている間だけは、ホッとしている自分がいた。

俺の絶望を共有したこの世の誰かと、たしかに繋がっているという安堵感。

だが、いつまでもこうしていられるわけもなかった。

​電話を切った後の無機質な静寂が、たまらなく寂しかった。

温もりを知ってしまった分、車内の冷たさがさっきよりも身に染みる。

糸がぷつりと切れて、暗い宇宙に放り出されたような感覚。

​世界から「お前の居場所は、ここにもない」と静かに告げられたような気がした。

数行に凝縮された、惨めな幕引き

薄暗くなってきた車内、ルームランプの薄明かりの下で、家から持ち出してきたノートを広げた。

両親へ向けた、簡易的な遺書を書く。

​『助けてもらったのに、また借金を作ってしまいました。迷惑をかけてごめん。借金は相続放棄してください。今までありがとう。』

​たった数行。人生の幕引きにしては、あまりにも短く、あまりにも惨めな言葉だった。

​呪わしいほどの、生への執着

​その後、薄暗い静寂の中、何度も自ら幕を引こうと試みる。だが、苦しみに襲われるたび、取り留めない思考が邪魔をするたび、結局は完遂できない。

​もし死んだらどうなるんだろう。無になるのか。その後はどうなる? 腐乱して発見されるのか? 家族は……こんなクズな俺でも、死んだら悲しむんだろうな……。

​そんな考えが次々と浮かんできて、ここまで落ちぶれても、俺は死ぬのが怖かった。

死ぬことすら、俺はまともにできないのか。

​往生際が悪いと自分でも思った。

自分の命が持つ、この泥臭くもしぶとい執着が、何よりも呪わしかった。

​俺にはもう時間がなかった。督促状が自宅に届き、家族にバレたら手遅れになる。その前に終えなくては。今日こそ、終わらせなくては。

逃げ場を無くすため、勢いで終わらせるため、酒を煽った。

だが、死ねない。人間の本能が、冷徹に邪魔をしていた。

​冬の冷たい空気の中で、自分の吐く息が白く消えていくのを、泥酔した頭で眺めているしかなかった。結局、その日も夜が訪れようとしていた。

​嘘を積み上げ、金を使い果たし、死ぬことすらできない。

そんな、人間としての最低限の輪郭さえ失いかけていた俺の生活に、ついに、本当の「終わり」が訪れる。

​それは、自ら選んだ幕引きではない。

引き裂かれるような、残酷な現実の崩壊だった。

読者の皆様へ

​この物語は、私、泥谷自身の過ちと絶望の記録です。

私はあの時、救いようのない孤独の中にいましたが、それでも「声」を介して誰かと繋がった事実に、どこかで生かされていたのだと感じています。

​今、苦しみの中にいるあなたへ。私の物語とは違う、あなただけの希望があると思います。どうか、最悪の選択をする前に、一度この窓口を頼ってみてください。

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借金の問題で苦しんでいる方へ

​心の苦しみを誰かに話すのと同時に、現実的な「借金の解決」に向けて動き出すことも大切です。

当時の私は「死ぬしかない」と思い込んでいましたが、法的に借金を整理する方法はあります。

​誰にも言えず、督促に怯えているのなら、まずは専門家(弁護士や司法書士)の無料相談や、法テラスなどの公的機関を頼ってください。お金の問題で命を捨てる必要はないと今の私は思っています。

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